焼酎アドバイザー、という「資格」

初出:2004/06/21

2種類のええかっこうしい

内容と不釣り合いに外面を充実させようとするさまを、
関西で「ええかっこうしい」という。
アクセントは「か」にあり、
実際にこのアクセントで話すと、
まさに軽侮の響きがある。

このええかっこうしい、私は一概に悪いとは思っていない。
多くの場合、ええかっこうを維持するためには
相応の努力が必要だからだ。
例えばGacktという人がいるが、
あの人は結構な努力家ではないだろうか。
努力を続けてその結果、ああいう風になっちゃった、
ということの是非はとりあえず別にしてもだ。
少なくとも、頑張って吊り上げた外面が、
内面を律するという利点はあるように思う。

そして、どんなええかっこうしいでも
いつかは化けの皮が剥がれる時が来る。
ただ、この化けの皮の剥がれ方には二種類あると思うのだ。
つまり地との落差が愛嬌になる場合と、
ただ単に恥ずかしい場合と。
そして、この両者の分水嶺は、ええかっこうをするための
真摯な努力の量が関係するのではないか。
安易なええかっこうしいは、
往々にして恥ずかしい結果を生むような気がする。

意義が見つからない

前置きが長くなったが、この「焼酎アドバイザー」という資格、
これは最初、立派な名称相応の努力の末に得る類の資格だと思っていた。
鋭い人なら資格名を聞いてすぐに、胡散臭え、
と思うのかもしれない。
私は鈍いから、取ろうかな、などと本気で考えていた。
更に告白すれば、ここに「焼酎アドバイザー受験記」
などを書こうとしていた。事実だがこれは結構恥ずかしい。

そして今、受験する気はさらさらなくなった。
なぜか。「内実がない」という結論に至ったからだ。

まず、この資格の公式サイトを見た。
勤務実績を問わず誰でも受験できるというところは、まあいい。
資格取得には一定期間の実務経験が必要と謳いながらも、
結構いい加減な資格は他にもある。
唯一の受験資格要件である講習会の受講費用が¥25000も掛かり、
そして受験料や合格した暁に必要な他もろもろに
¥50000強掛かるということも、まあいい。
挙げ句は資格の維持費として「年会費」の名目で
毎年¥10000強払わなければいけないことも、まあいい。
金喰い虫の資格は他にもゴマンとある。
また高額を貢いだとしても、
得る物が有形無形で大きければ一概に高価いとは言えない。

読んでいて疑問に感じたのは、このサイトのどこにも
合格率について触れられていないことだ。
確かに合格者の数は載っている。
一体どのくらいの人が受験するのか。

しかしこれは簡単に検索できた。
某大手新聞の記事によると合格率8割強らしい。
めちゃくちゃ広き門である。

いくら講習会で分厚いテキストを渡されようが、
実技試験でテイスティング能力が「試され」ようが、
どうせほとんど受かるのだから何の意味もない。
それとも、受験者が皆揃って勉強家だから合格率が高いのか。
どうもそれは少し考えにくい。

ならば、仮に合格率が低ければ有難い資格となりうるのか。
全てがそうとも限らない。
資格はある種の生産的スキルを有する者という証明であるからこそ、
意味があると思う。
少なくともその分野のプロフェッショナルに至る出発点にいる、
という証でなければ、その資格は意味をなさない。
意味もなく難関な資格、というだけなら、
一種クイズ王的尊敬を得ることはできるかもしれないが、
ただそれだけの話だろう。

どれだけ必要とされているかで、その資格の価値は決まる。

つまり、合格率なんかわからなくても、
この資格の必要性に思いを馳せるだけで
その実の有無は判断できたわけだ。
そもそも、焼酎を「どんな時に呑んだらいいか」
などと訊く人間が世の中にどのくらいいるのか?
そういう資格所有者に蘊蓄を垂れてほしい人
どれくらいいるのか?

必要性が希薄で、しかも「スペシャリスト」への入り口にいるとも
到底自負することができない資格。

「焼酎アドバイザー」を持っている人自体を否定するわけではない。
取得する人にも、いろいろと大人の事情があるのだろうし、
資格を持っていて、かつ真っ当な仕事をされている方もいるだろう。

単に、この資格を有すること自体だけでは、
実質的意義はないだろう、と考えるだけだ。

だから、このような結論に辿り着いた後、
プロフィールにこの手の資格(他にも似た類が色々あるのだ)が
さも意味ありげに書かれていたり、
または自ら吹聴する人間を、私は警戒するようになった。
その内実に対して名称がいかにも「それっぽい」ところに、
「安易なええかっこうしい」の匂いを感じるからだ。

森伊蔵偽造事件と焼酎アドバイザー

だが、この資格、今後大化けする可能性があるのかもしれない。

そう思ったきっかけは、先の森伊蔵偽造にまつわるゴタゴタである。
(注:話題が古いのは何卒ご容赦を)
ご存じの通り、偽造した森伊蔵のラベルを他の焼酎に張り付け、
ヤフオクでプレミア価格で売りつけていた人間が逮捕されたという事件だ。

この事件はご存じの通り、結構な騒ぎになって、
皮肉にも、焼酎の存在を更に再確認させた感がある。
森伊蔵の抽選電話回線も以前より格段に繋がりにくくなった。

私はこの事件は所詮暗黒面の一隅にすぎないのでは、
と勝手に思っている。
根拠無き憶測だが、出来上がった酔っぱらいに
森伊蔵やら伊佐美やらと偽って別の焼酎を出し、
高価い代価をふんだくる悪徳居酒屋なんかがあっても驚かない。

焼酎の空き瓶が麗々しくディスプレイされた店内。
「おい親爺、この伊佐美本物だろうな」
「源さん、うちが偽物出すわけないでしょうが」
「しかし妙に味が残るぞ。こんなんだったか」
「体調が悪いんでしょう。身体壊さないで下さいよ。
これ勘定ね。またよろしく」背を向けてほくそ笑む親爺。

もっと想像を膨らませば、某国が外貨獲得のために
偽造に手を染めることもあるかもしれない。
紙幣の偽造ができれば、ラベルの偽造なんぞ楽勝だろう。
そのラベルは万景峰号(仮名)に載せて運び込むわけだ。
ラベル貼りは某国総連という出先組織でせっせと行う。
・・・いや、これは有り得ない。効率が悪すぎる。

ただ、偽造や騙しが飲食店・酒販店問わず
あからさまに跋扈しだせば、
焼酎アドバイザーが活躍する余地がある、かもしれない。

資格所有者は名実共に、
真っ当な焼酎の目利きであることが大前提である。
それを束ねる組織はその真っ当さを保証し、
悪質な騙しなど、意図的な規約違反者には
相応の罰則を与えるようなシステムが機能すれば、
「安心して呑める/買える」といった安心感を
エンドユーザーに与えることができるのではないか。
更にプレミア販売の抑止力にもなれば、なおいいのだが。
プロがプロとして活躍できる場がまず、必要だと思う。

ワインにおけるソムリエの歴史は、
古くは王侯貴族の毒味役に端を発する。
そういう人物の中でも信任を得た者が、
ワインセラーの管理を任されるようになった。
膨大なワインの管理にはその出自、生産年など、
データの体系的整理が必須だっただろう。
不味いワインを御主人様に供するわけにもいかなかっただろうから、
味に異常はないか、常日頃から気を配っていたに違いない。
知識を得るだけに留まらず、味覚にも鋭敏にならざるを得なかったのは、
ええかっこうをするためではなく、真剣な要請があったからだ。
もっとも、今のソムリエ、特に日本におけるソムリエが
どの程度必要とされている職業なのか、私には判断できない。

つらつらと考えてみれば、
「焼酎アドバイザー」が活躍できるようになる時とは、
つまりエンドユーザーにとって疑心暗鬼の
大変不愉快な時なのかもしれない。

だから、いずれにしても、
私には一生縁があって欲しくない資格である。