脱プレミア銘柄。マイテイスティングの方法。 (2)

「味わう」−制覇した数は重要じゃない

「味わう」とは「ある程度の数を呑む」ことである。当たり前だが重要である。しかし、味の振幅が非常に広い芋焼酎ワールドを隅から隅まで開拓し尽くすことは、普通に考えて不可能だ。それでも、その世界がどの程度広大なのか、およその見当くらいはつけておきたい。

しかし、様々な銘柄に触れるには、居酒屋で呑むにせよ購入するにせよ、なかなか時間とお金と手間ヒマがかかる。そこで、スタートダッシュの費用対効果が高い方法として「試飲会で呑む」という方法がある。

焼酎群

※試飲会の様子。

試飲会の主旨にもよるが、さまざまな銘柄を手広く味わうことができる。立ち呑みで好き勝手に呑める場合もあれば、やや格式張った食事付きの場合もあり、形式もお値段も幅広い。

問題は、呑み進むにつれて味がわからなくなってくることだ。一般的にも言えるが、強い味の銘柄を呑んだ後に上品な銘柄を呑んでも、後者の繊細さはよくわからなくなる。私の場合も、芋焼酎界の破壊王「青酎」(青ヶ島酒造)という、恐ろしく強い後味を持つ銘柄を呑んで以後は、何を呑んでも味が同じになったことがある。

追記: 「青酎」は橋本真也か。まあ、なんとなく雰囲気は似ていないこともないか。

しかしながら、試飲会は単純に酔っぱらいに行くだけでも愉しいものだ。周囲にいる人もだいたい同好の士なので話も弾みやすい。最初は恰好つけていても酔いが回れば、まあ皆よく喋る。試飲会は酒販店主催に限らず、様々なかたちで行われているようなので、機会が合えば訪問されても損はない。

なお、「味わう」にあたって、呑んだ銘柄数が多けりゃ偉いってわけでもない、と思う。勝った負けたの話ではない。

追記: 「数」はわかりやすいからえてして自慢の対象になりやすい。「千人斬り」を自慢するようなものか。

例えば、呑んだ芋焼酎の銘柄数で遙かに私を凌駕する知人は、ワイン一本空けた後で焼酎、などとアル中の牛のような呑み方をするので、「××どんな味だった?」と訊いても、答えがどうも要領を得ない。へべれけになってから色々な銘柄を空けても、味がわからないのは当然だ。

ちなみに私の場合、一日でテイスティングノートに記録する銘柄はひとつである。これはひとえに私のアルコール耐性に起因する。
ただ、個人差はあるだろうが、誰しも一気に芋焼酎の味を判断できる閾値はそんなに多くないだろう。呑んだ銘柄数が経験値に直結するとは限らない。

「整理する」−まずは種麹菌を軸にする

しかし、単に呑むだけではいままでと同様、である。そこでだいたいにでもその味を「整理する」。
つまり、芋焼酎ワールド中における銘柄のおよその位置を確かめていくことであり、このステップがテイスティングの主軸となる。

例えば、やっとこさ入手した「黒麹仕込 佐藤」(佐藤酒造)を呑むことになった、としよう。おお。これが黒佐藤か。はは。ラベルまで真っ黒だ。キュッ。ぐび。おお。いやあ噂に違わず旨い。芋の味と鋭い切れ。これぞ芋焼酎という奴だなあ。

この銘柄は他の銘柄に比べてどの程度「芋の味」がして、かつ「切れ」るのか、そこがわからない。

そこで「整理する」方法の手がかりとしておすすめしたいのが、「芋焼酎のスペックとリンクさせながら、その味わいを把握する」ことだ。スペックとはおおむね次のようなものだ。

・使用している芋の種類
・麹
・種麹菌

追記: (おぼろげながらでも)我々素人が比較的味わいとの因果関係が掴めそうなパラメータは、この3つくらいだと思う。他、消費者が把握できる味わいに寄与する要因としては、「蒸留方法」「貯蔵方法・期間」等がある。しかし、例えば「かめ壺仕込み」が味にどのような影響を及ぼすか、明確に語れるアマチュアがいるだろうか。「樫樽10年貯蔵」等、極端な例を除けば、他の要因はそれほど気にしなくてもいいだろう。

これらは全て芋焼酎の味わいに寄与するところ大である。一部スペックが公表されていない銘柄もあるが、だいたいはインターネット上の検索エンジン、文献等々で判明する。

そして、この中でもとりわけ重要なのが「種麹菌」による区別である、と思う。

確かに芋の種類によっても味わいに大きな傾向差が生じるし、3種の麹(米麹、麦麹、芋麹)の差もそれぞれ個性的で興味深いが、芋や麹によって生じる味わいの差は時に極端で、種麹菌による差異を覆い隠してしまう。よって、まずは芋焼酎の多数派王道であるコガネセンガン・米麹系の銘柄を中心に据え、種麹菌が味わいにどのような幅を持たせるかを感じ取りながら呑むのが、銘柄の個性を把握する上で判りやすいのではないだろうか。

種麹菌には白麹/黒麹/黄麹の3種類がある。これらの種麹菌はそれぞれ味わいに特徴的な「ある幅」を持っている。 またこの区別は、銘柄にもよるが、概ねコツをつかめば簡単だと思う。そして簡単な割には効果が高い。

どんな効果か。例えばこんなことがあった。「焼酎バー」なるところで呑んだ時の話。

追記: 以下は作り話無しの実体験。

店内のカウンターには焼酎の瓶が所狭しと並べ立てられている。60種類はあっただろう。「伊佐美」(甲斐商店)や「魔王」(白玉醸造)等、なかなか正価でお目にかかりにくい銘柄も多かった。しかも単価は一律600円という。まずは「さつま寿」(尾込商店)のお湯割りを頼んだ。この銘柄が白麹づくりだということはたまたま知っていたが、今までに数回しか口にしたことがない。呑む。なんだこの妙な刺々しさは。おぼろげに残る味の記憶と違う。どうにも黒麹的味わいなのだ。

語弊があるかもしれないが、私は焼酎バーの経営者がおしなべて正直トムであるわけがない、と思っている。だから、「森伊蔵」(森伊蔵酒造)と偽って別の銘柄を供するところがあっても驚かない。このバーもかなり怪しい、そう踏んだが、問いただしたところで何の益にもならぬ。真実だったとしても、マスターが涙ながらに悪業の数々を告白するわけがない。次に頼んだ「晴耕雨読」(佐多宗二商店)も更に怪しい雰囲気を醸していたので、もう二度と行かないだけのことである。

追記: これを書いて1年後くらいでこの店は潰れた。

懐疑の真相は今もってわからないが、種麹菌による味の差を知ることは、騙しが横行する世間を小ダメージで切り抜けるための自衛手段たりうるかもしれない。(以下更に続く)