September 2, 2006
柳月堂(喫茶・京都市左京区)
Category : グルメ de 京都
やかましい静寂
ここはグルメでも何でもないが、非現実を味わう場所である。
今や絶滅の危機に瀕している、名曲喫茶の一つ。
同ジャンルの全国の店舗を合わせても、きっと100店に及ぶまい。
「名曲喫茶」。響きはなんとも黴臭い。
普通は過去の遺物扱いされ、見向きもされない。
しかし、この店はある意味、きちんと時代に即しているのだ。
「スロー」なのだ。それも攻撃的なまでに。
一旦オーディオルームに入ると会話はほとんど禁止。
携帯メールを打つことすらダメだと言われる。
クラシック音楽はひたすらバカでかいボリュームで流れ続ける。
かくして、情報から隔絶された部屋の中、ひたすらクラシックを聴くことになる。
あの大音量の中では単に寝入ることすら困難を伴う。
名曲喫茶の中でも、そのコンセプトは徹底している。極北である。
奥のオーディオルームに案内される。
天井が高い。30人くらいは入れるだろうか。
席は学校の教室の配置で、全て正面ステージに向いている。
差し向かいのテープルなんかは皆無だ。存在すら許されないようだ。
そしてステージには、何か兵器の発射口にも似た馬鹿でかいスピーカーが鎮座し、
レコードノイズ混じりのクラシックをひたすら流し続ける。

正面のステージ。物音に対する制限は本当にきつい。後ろに座った兄ちゃんがジッポとおぼしきライターで火をつけるなり、ウェイトレスがすっとんできた。灰皿についてくる100円ライターを使えと小声で思い切り注意されていた。徹底している。
できることは、その音楽に耳を傾けるか、本を読むかくらいしかない。
その空間の思し召しに身を委ねていると、
だんだんと脳のある部分が鈍麻してくるのがわかる。通常得難い感覚である。
人里離れた山中の静寂の中で一人、なんかとはまた違う感じを受ける。
一種の胎内回帰なのかもしれない。まあ強烈な胎教ではある。
しばらくこの空間で身を置いた後に外に出ると、
外界の空気がひどく新鮮に感じられる。
この感覚を味わうためだけにでも行く価値はあると思う。
日常から扉一枚隔てて、パチンコ屋の2階に非日常が広がっている。
立派な街中の秘境。
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